“活きる”を引き出す人/LIGHT AND DISHES no.43レポート

芦沢 啓治さんのこと

いま、”建築家”のスタイルはこれまで以上に多様になってきているイメージがあります。1軒の家から、大きな建物まで手がけることを基本に、建物を設計するだけではなく家具やその他プロダクトのデザイン、生活に関わる様々な状況をプロデュースするにいたるまで多種多様といったところ。本来の建築家のイメージにとらわれない活動をしている人たちを個性的、異端、などと例えるならば、芦沢さんも間違いなく個性的で異端だと思います。気になっていた、石巻工房のことを聞いてみました。なぜ、このプロジェクトを立ち上げたのか ? 意外にも、このプロジェクトの内容自体が芦沢さんのことを物語っているように思いました。

道具があったら、何かできるし造れる

ご存知のように、石巻工房は2011年3月11日に起きた「東日本大震災」の時からスタートします。元々、芦沢さんの施主だった方の家が津波に流されたと聞き現地に足を運んだことがきっかけとか。地元の高校生たちに、DIYでできる家具のつくり方や形(デザイン)のプロセスなど、被災地に持っていけるだけの工具を集めて行き、教えてたとのこと。ここで、この工房のシグネチャープロダクトとも言えるベンチ(芦沢さんデザイン)が生まれます。なんとか場所があってそこにいろんな道具、工具を置いてあるとみんなそこに集まるようになる。壊れてしまったもの、流されてなくなったものを被災した人たち自らの手で作り出す。そう”DIY”の家具、それが石巻工房なのです。手作りにデザインの力が加わり、プロダクトブランドとして今では世界中から知られるようになったわけです。棚をつくったり、椅子をつくったり、ご自身が建築の知識と実績があるからこそ、”もの”をつくるということの意味、必要性を伝えられるということなのかもしれません。精神的にも追い込まれていた被災された人たちの心を再建したとも言えるこのプロジェクトですが、建物を設計できるということはそこに潜んでいる価値や可能性を引き出すこともできるということですね。

人も場所も巻き込むことが芦沢流 ? ! 

芦沢さんの”巻き込み力”をモチーフにつくった、”ズッキーニとベーコンの巻き込みグラタン”

私は、会社員時代のほぼ最後の方に芦沢さんと出会いました。会ったこともない芦沢さんから突然メッセージをもらったことがきっかけ。それは、ガラス職人や製造工場とデザイナーを繋げるプロジェクトで照明や家具を作ってガラスの可能性を伝える(展示)というプロジェクトでした。会って、話しを聞いていると、不思議なのですが「この人のやることだったらきっと何か面白そうだし、意義のあることになるから参加してみよう」という気持ちにさせられるのです。そういった人たちが彼のところに集まってくる。これこそ”巻き込み力” ! ! ここ近年では、デザイン小石川もそうでした。街とデザインをつなぎ、文京区小石川という場所の可能性を広げるという目的の空間活用プロジェクト。2年で取り壊しになるビルの超格安という賃料を魅力に、2年という時間を最大限充実に活かしたのではないかと思います。週末には小石川の八百屋さんがマーケットを開催したり、家具ブランドやデザイナーの展示会を開催したりしていました。こんなことをプロデュースしてしまう芦沢さん。これも建築家であるからこその発想と、周辺地域とのコミュニケーションパワー無くしては成し遂げられなかったプロジェクトだと思っています。

巻き込みの渦は国境を超えてまだまだ続く

その他、芦沢さんが関わるプロジェクトは興味深く。家具ブランド、カリモクの新たなブランドでもあるKarimoku case study や 家具の町、佐賀県諸富町発の新ブランド、ARIAKE 。どちらも、海外を市場に見据えているプロジェクト。海外のデザイナーたちも参加しているので、日本という国のものつくりの可能性を深く知ってこそ成り立つことでもあり、そこで芦沢さんの魅力でもあるグローバルコミュニケーションが発揮されていくのです。聞くと、海外留学経験は無いとのこと。英語は、ご自身独学でマスターされたらしいですが、何よりも常々フットワークが軽く、”ちょっとそこまで”のような感覚で日本と海外を行き来されている様子を見ていると”カラダ”で習得されているような気がします。先の石巻工房でも書きましたが、家を修復・復旧したり、ベンチをつくり椅子をつくるのには道具が要るわけです。人と人、会社と会社、国と地域、多国籍とのコミュニケーションをはかり、コトを、そしてビジネスをつくっていくための道具の基本は言葉。どちらも重要な道具。でもその道具に頼ってばかりでは、創造力ある魅力的なものは育たない。芦沢さんをみていると、長くつかっていくことで(継続すること) 、手に馴染じむ(経験・実績) 道具となっていき、その魅力が詰まった道具で未来を築いていっていっているのではないかと思いました。

最後に

今回の回、いろんな業種で仕事をしている人たちが集まりました。芦沢さんは、自らキッチン側に、最初から最後まで立ち、来てくれた人たち一人一人の前に行き、「で、さっきの続きだけどさ・・」と言わんばかりに、前から知っている仲間のように話しかけていきます。笑い声も絶えず、ワイン片手に淡々と会話をしている雰囲気がたまらなく面白くて、イベントでありながら最後には芦沢さんを酒の肴に、集まった人たち同士が楽しく会話しているという状況に。

これがLIGHT AND DISHES の醍醐味でもあるので、私も今回はかなり楽しませてもらい感無量。芦沢さんが帰るちょっと前に、やっと客席側に戻ってきて椅子に腰掛け言った言葉が印象深かったです。「デザインの世界にいる人たちは幸せだよ。デザインなんて、それ以外の世界の人から見たら”趣味で遊び”みたいなことに映るんだから。好きな趣味をとことんやれる世界にいるってこと。だから幸せなんだよ」と。これを聞いて、色々と思われる人もいるでしょうが、それってきっとほんとはどんな世界のことにも言えるんだと思いました。要は自分が選んで生きている世界にいれば、皆幸せってこと・・でしょ ? 芦沢さん? なんだか、出口のの見えない迷路に入り込みそうだから、ここで辞めときます(笑) これは、芦沢啓治さんの回その二がまたありそうな気がして来ました ! ! 芦沢さん、みなさんありがとうございました !

たにたや店主 : 谷田 宏江

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